なりたい自分になる

東大ロー生の雑記。法律、アニメ、イラスト、ドラム、ビール、鉱物、時計などについて書きます。

壇蜜さん出演の宮城県観光PR動画について

 

www.youtube.com

 

www.huffingtonpost.jp

 

お昼のバイキングという番組で、宮城県の観光PR動画について物議をかもしているというのを見ました。

壇蜜さんが「宮城、行っちゃう?」「肉汁トロットロ、牛のし・た」「え、おかわり?もう〜、欲しがりなんですから」といったり、亀の頭をなでて「上、乗ってもいいですか」とささやくと、興奮して顔を赤らめた亀が大きくなるというような性的表現が含まれています。

動画を見る限り法的議論にはならず、マナーレベルの問題にすぎないのは明らかですが、一応法的レベルからマナーのレベルへ順を追って検討したいと思います。

 

1.「わいせつ」(刑法第174条)か?⇒問題なし

モザイク入りのAVが「わいせつ」にあたらないという司法判断を前提にすれば、当然今回の動画も「わいせつ」ではないことになります。

 

2.個人の権利・利益を侵害しているか?⇒問題なし

(1)宮城県民の名誉?

性的表現が含まれる観光PR動画によって、宮城県民としての誇りを傷つけられた!と主張して、名誉権(人格権)侵害を主張する可能性はなくはないですが、認められる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。

 

名誉は、自己の客観的・社会的評価である「外部的名誉」と、自己の主観的・内面的評価である「名誉感情」の2種類にわけられます。

そして名誉が害された場合の救済を定めた刑法や民法では、原則として前者の「外部的名誉」が害された場合にのみ救済を認めると解しており、「名誉感情」を保護の対象と解していません。

名誉感情について救済が認められる場合については、東京地方裁判所平成8年12月24日判決が次のように述べています。名誉感情は、「内心の問題であり、個人差が大きい上、他人のいかなる言動によって名誉感情が害されることになるか、害されるとしてどの程度かという点についても個人差が著しく、他人からは容易にうかがい知ることができない」。ただし例外的に、「誰であっても名誉感情を害されることになるような、看過し難い、明確かつ程度の甚だしい侵害行為」にあたるときは不法行為にあたるとしています。

 

本件では、今回の動画によって宮城県民が主観的に自分の評判が下がったと考えることがあったとしても、その客観的評価までが下がったとはいえないので、名誉権侵害は成立しません。また、今回の動画でそこまで侵害のはなはだしいものとはいえないと思われるので、名誉感情を害されたことについての人格権侵害も認められません。

 

(2)見たくないものを見せられない利益?

ただ動画の中には、見る人によっては羞恥心を感じさせるような性的な表現が含まれており、このPR動画がいたるところで流れるのであれば、宮城県民にとって「見たくもないものを無理やり見せられることのない利益」が侵害されているといえなくもなさそうです。

 

この点については、とらわれの聴衆事件が一応想起されます。

この事件において原告は、大阪市営地下鉄の商業広告について、走行中の列車内において、いわば乗客として拘束された状態にあることを利用して、聴取する義務がない放送の聴取を一方的に強制するものであって、その人格権を著しく侵害することを理由に、商業広告の放送の差止や放送を中止するまで一ヶ月あたり1千円の慰謝料を請求しました。

もっとも、この事件では最高裁でも請求が棄却されましたし、まして今回の動画は見たくない人が見ないことは地下鉄内での商業広告以上に簡単なので、このような主張は認められないでしょう。

 

3.青少年の健全育成の観点から問題はないか?⇒問題なし

青少年の健全育成の観点からいわば後見的に青少年から性表現を遠ざけるための規制が正当化される場合があります。が、今回の動画に含まれる表現は街中でも聞こえてくる下ネタ程度のものなので、青少年との関係では問題にならないでしょう。

 

4.マナー的にどうなのか?

記者会見において宮城県の村井知事は「もちろん、賛否両論あるだろうなとは思った。」「誰も、可もなく不可もなくというようなものは、関心を呼びません。したがって、リスクを負っても皆さんに見ていただくものをと思いました。おかげ様で『賛否両論色々あると思います』とテレビで言っていただいたおかげもあって36万アクセスを超えました。さらに厳しいことを言っていただくと、もっと伸びると思いますんで、どんどん厳しいことを言ってアクセスを伸ばしていただきたい。」「見ていただかないと意味がない。宮城って涼しいんだなということは感じてもらえるので、そこからまた次につながっていくと思いますんで。私としては賛否両論あったことが逆に成功につながっているんじゃないかなと思っていますんで」と答えたそうです。

さらに記者の「老若男女が対象であるべき観光で賛否のある内容が果たして適切なのか。一部の年齢や性別をターゲットにして、『炎上』状態にして興味を引き立てるということは、観光で宮城をPRするという分野において適切な内容なのか」という質問に対しては、村井知事は「私としては面白いと思っている。あれをみて『宮城に行かない』と、そういう感じにはならないのではないか」と回答したようです。

 

確かに法的に問題のないことであれば、原則として誰でも自由にすることができるはずです。

また、行政が発信する情報であっても、必ずしも清廉潔白なものでなければならないわけではありません。くだけた親しみやすい表現のほうが、観光PRにとって有効適切な場合もあるからです。

それに、最近は特にSNSにおいて、些細な問題に対して過剰に批判が集まることによってそこらじゅうで炎上が起きていて、いちいちクレーマーに配慮していては、かえって自由な表現が妨げられるという弊害も指摘されています。

 

しかし、今回の動画については、その発信主体が宮城県という行政主体であること、そして事前に誰かの気分を害することが明白であった点を特に考慮せねばなりません。

宮城県という行政主体が出す観光用PR動画は、宮城県のイメージを左右する広告媒体として機能し、また宮城県民だけでなく日本中、世界中の多くの人が見るものです。村井知事は「私としては面白いと思っている。あれをみて『宮城に行かない』と、そういう感じにはならないのではないか」と述べますが、特に面白みがあるわけでもなく、また、熟考の末出てきたものがあの下ネタじみた観光PR動画だとすると、稚拙な観光政策だなぁと思う人もいるだろうし、県の評判が下がる可能性はゼロではありません。そうであれば県は、その影響力の大きさを考慮して、特に慎重に動画作りに望むべきです。それが誰の権利・利益も害さないようなものであれば問題ないかもしれませんが、実際にあの動画を見て性的で下品だとか、宮城のPRとして適切でない、と不快に感じる人が相当程度現れており、そのことは容易に予想できたといえます。にもかかわらず、きたるべき炎上を逆手にとって宣伝手法として利用することは適切ではないと思いました。

(※ただ、「相当程度」といいましたが、実際にどの程度不快だと感じる人が現れたかは難しいポイントだと思います。炎上クレーマーの中にはただ騒ぎたいだけの輩がいるのは前述のとおりです。バイキングのタレントはみんな足並をそろえて、動画をみる人が増えるからOK!でした。私はやや不快でした)。